貌師
貌師(かお-し,
The Face=Maker)とは
曖昧団地に居を構える
老齢の男。居室を訪れる者に望む“顔”を与え、
奇異國町を構
成する
【歯車】へと仕立て上げる。
「望む貌を仕立てよう。本当の望みは君の裡にあるのだから。」
奇異國の辺縁を彷徨うものは、その裾野たる外町に足を踏み入れるに当たってあるいは迷い込み、あるいは誘い込まれ、あるいは駆り立てられる様にして貌師の元に訪れる定めである。丸眼鏡の奥の瞳を光らせる彼の尋ねに対し、罪深き訪問者は出来る限りそして明確かつ明朗にそして何にもまして正直に自身の望む「貌」を答えなければならない。意図せぬことを意図せざることへと形作るのもまた、業と業を宿縁に結ぶ町の望む【歯車】を拵えるに長けた熟練の貌師の腕前の内であるからだ。
「しかしながら全ての望みは、私の裡にこそあるのだよ。」
喉元まである山羊髭を二本の指で捻(ひね)りながら、貌造りの堂に入った棟梁たる彼はただただ思案する。望みは?望みは?望みは?見据える両の眼は寝椅子に身を預けた犠牲者のカンテラに火照る顔の奥の更に奥、怪異の町を絡繰るに相応しい並びの狂った歯車の塑像へと向けられている。願いは?願いは?願いは?慄(おのの)く羊達の悲鳴の如き願いを痛ましいかぎりの旋律に変えて、彼は筋張った腕で運命の鑿(のみ)を揮う。
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最終更新:2012年10月18日 17:43