獄門太郎


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獄門太郎

【人物】【歯車】

獄門太郎(ごくもん-たろう)は、小林養鼠で雑役夫を務めるうすのろの巨漢。その本名
来歴を知る者は無く、「猿髭党」を愛好する大の大人たちからは親しみと敬意、そして
侮蔑を込めて「獄門太郎」と呼び習わされている。

「お、おで、綺麗ずきなんだ。」

収穫を終えた房の清掃は、誰もが敬遠する嫌ったらしい仕事だ。篭鼠の切り落とされたそっ首から零れた糖を含んだ粘度の高い血が飼育箱の内に外にべったりとこびりついて、目の粗いブラシで金板からこそげ落とすその手間もさることながら熟れた果実を想起させるむせかえるような匂いが房に立ち入るやいなや鼻腔を否がおうにも刺激する。まっとうな神経なら昼の肉味噌定食が胃から逆流しそうな臭気の中を、どんぐり眼(まなこ)の巨漢は赤茶に汚れた花柄のエプロンかけかけ、鼻歌交じりにタイル貼りの床にモップを掛ける。小腹が空けば懐のポケトをもろ手でまさぐり、好物のジャイアントコーンを奥歯でゴリゴリ。サーモンピンクのタイルの地色が一枚、一枚と現れるたびに、太郎は巨躯を折り曲げて分厚い唇で接吻する。日々が常に新しい一日である類稀(たぐいまれ)な脳構造を持つ彼にとって、掃除とは血と脂で覆われ隠された美の発見、新たな世界の創造に等しい崇高な儀式なのだ。


「ななじゅーう、はってん。あと…よんじゅってん、ぐらい?」

ポケトの中には黒革張りの脂じみた手帳が一冊、大事にしまいこまれている。茶けた紙面には忘れてはならない愛すべき同僚達の名前がHBの拙いひらがなで繰り返し繰り返しびっしりと書き込まれて、最初の頁(ぺーじ)にはこれは果たして表題なのか、赤のサインペンで引っかくようにこうある。「ふくしゅうてちょう。」房の並ぶ給餌舎の端の一室に身をちぢこませた太郎は、節くれた指には不釣合いなちびた鉛筆で日々、復讐を復習する。脳裏に刻まれた同僚たちの罵詈雑言、彼はそのひとつひとつを丁寧に思い返し、愛を以って手帳に書きとめる。ひとことに一点、ふたことに二点。「糞やろう」に三点。張り詰める程の愛が百点満点に達するその時、度重なる恩に報いて彼は"愛"を執行する。





















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