問2 ログの管理に関する次の記述を読んで、説問1~3に答えよ。

 H社は、200名が勤務する高級化粧品の訪問販売会社である。H社では、顧客の連絡先、訪問記録、購買履歴などの個人情報を管理する顧客管理システム(以下、Bシステムという)を利用している。Bシステムを利用しているのは、営業部の1課~5課に所属する140名である。そのうち、営業を行っている120名は個人情報にアクセスする権限をもち(以下、有権限者という)、担当顧客の情報を記録、参照している。残りの20名は、売上状況などを集計するためだけにBシステムを利用しているので、個人情報にアクセスする権限をもたない(以下、無権限者という)。各営業部門は貸与された端末を社内で利用している。
 最近、H社の同業他社であるC社において、顧客の個人情報がシステムから漏えいするという事件があった。そこでH社では、情報システム部のD部長が中心となって個人情報漏えい対策を強化することになった。D部長は、対策の検討に当たって部下のE課長に対し、H社のシステムの中で最も多くの個人情報を保有しているBシステムのアクセス管理の状況を確認するように指示した。
 E課長は、Bシステムの利用者IDの管理状況を調査した。その結果、次の点を確認することができた。
  • 利用者IDの登録、変更及び削除は、申請に基いて実施している。
  • 3か月ごとに利用者IDと利用者名の一覧を営業部の各課長に提示の上、業務上の必要性について確認している。なお、利用者IDと利用者は1対1に対応している。
  • Bシステムのログを取得し、3年間保存している。

 E課長がこれらの調査結果をD部長に報告したところ、D部長から、”利用者IDの管理状況は分かったが、それだけではBシステムの利用が適切に行われているという保証にはならない。個人情報漏えいにつながるような不審な利用がないか、その予兆も含めて、ログを分析して確認するプロセス(以下、そのプロセスをモニタリングという)が必要である”と指摘された。

[モニタリングの検討]
 指摘を受けたE課長は、まず、Bシステムで取得しているログの種類を確認し、表1にまとめた。

表1 取得しているログ

ログを取得するイベント 取得する情報
ログイン成功 日付、時刻、機能番号(0001)、端末ID、利用者ID、成功(1)
ログイン失敗 日付、時刻、機能番号(0001)、端末ID、ログインしようとした利用者ID、失敗(0)
ログアウト 日付、時刻、機能番号(0099)、端末ID、利用者ID
ログインとログアウト以外の機能の利用成功 日付、時刻、機能番号(1000~9999)、端末ID、利用者ID、成功(1)
ログインとログアウト以外の機能の利用失敗(1) 日付、時刻、機能番号(1000~9999)、端末ID、利用者ID、失敗(0)
注(1) 利用権限のない機能もメニューに表示される。選択しても利用できず、ログが取得される。
注記1 個人情報にアクセスする機能の機能番号は8000番台である。
注記2 機能を使って読み出せる個人情報は1回あたり1人分である。
注記3 集計機能では個人情報を読み出すことはできない。機能番号は7000番台である。

 次にE課長は、Bシステムへのアクセスのうち、不審な利用及びその予兆とする物を表2にまとめた。

表2 不審な利用及びその予兆

記号 不審な利用及びその予兆
他人の利用者IDを使おうとして、推測した利用者ID又は推測したパスワードでログインを試みる。
有権限者が、自分の利用者IDを用いて、業務目的外で大量の個人情報にアクセスする。
普段、深夜・早朝にBシステムを利用することのない有権限者が、オフィスに人がいない深夜・早朝に、業務目的外で個人情報にアクセスする。
無権限者が、自分の利用者IDを用いて、個人情報へのアクセスを試みる。

 続いて、E課長は①営業部のF部長にヒアリングを行い、ログから不審な利用者IDを抽出するための条件(以下、モニタリング条件という)を検討し、表3にまとめた。

表3 モニタリング条件

条件名 抽出する利用者ID 表2の対応する記号
条件1 1週間で、ログイン失敗が3回以上の利用者ID
条件2 1週間で、8000番台の機能の利用成功回数が50回を超えた利用者ID
条件3 1週間で、22時~翌日6時に8000番台の機能の利用回数が1回以上の利用者ID
条件4 1週間で、【 a 】の利用者ID

 保存されているログを表3のモニタリング条件で分析したところ、どの条件に合致する利用者IDも見つからなかった。E課長は、F部長へのヒアリング結果とログの分析結果をD部長に報告した。
 報告を受けたD部長は、今後も表3の条件でモニタリングを行うように指示した。E課長は継続的にモニタリングを行うには、機械処理が必要と考え、ツールの開発を始めた。ツールの開発では、まず、モニタリング条件が、具体的かつ機械処理が可能なものになっていることを確認した。さらに、Bシステムのモニタリング手順を図1にまとめた。

手順1.毎週月曜日の朝8時に、過去2週間分(前週分と前々週分)のログをBシステムから抽出し、モニタリング条件に合致する利用者IDがログ中に存在するか確認する。

手順2.モニタリング条件に合致する利用者IDがログ中に存在した場合は、その利用者IDを保有している従業員を調査の対象とする。②利用者IDがBシステムに登録されていない場合は、関係するログに記録されている端末IDをもつ端末を貸与されている従業員を、調査の対象とする。

手順3.調査の対象となった従業員の上司に対してヒアリングを行う。個人情報漏えいにつながる可能性があると判断された場合には、更に詳細な調査を行う。

図1 Bシステムのモニタリング手順


[モニタリングの実施]
 Bシステムのモニタリング手順をまとめてから2週間後にツールが完成し、ツールによるモニタリングを開始した。D部長は③モニタリングの実施を社内に通達するよう指示した。ただし、④モニタリング条件はセキュリティ上の懸念から開示しないよう指示した。
 モニタリングを開始してから3か月後に、化粧品の専門知識をもった従業員4名が、商品部から営業部1課に異動になった。4名は、全ての顧客を対象として、顧客の購買履歴を基に、電話又は電子メールでアフターケアをする新サービスを担当することになった。4名は、新サービスを行うために、1人当たり毎週200回近く個人情報にアクセスすることになった。その結果、4名は表3のモニタリング条件2に該当し、業務目的のアクセスであるにもかかわらず、営業部1課の課長が毎週ヒアリングを受けることになってしまった。そこでE課長は、条件2のりよう成功回数のしきい値を50回から200回に引き上げることをD部長に提案した。
 提案を受けたD部長は、⑤条件2の利用成功回数のしきい値を引き上げると、適切なモニタリングができなくなるので、再度検討するようにE課長に指示した。E課長は再検討の結果、改善策として、表3に示すモニタリング条件2を、表4に示す新たなモニタリング条件2で置き換えることを提案した。

表4 新たなモニタリング条件2

条件名 抽出する利用者ID 表2中の対応する記号
条件2 【 b 】、かつ、8000番台の機能の利用成功回数が前の週に比べて2倍以上の利用者ID

 D部長は、当分はこの改良を加えたモニタリングを実施することを了承した。さらに、D部長は、”営業部の業務は今後も変化していくと考えられる。今回は、ヒアリングの実施件数が急増したことでモニタング条件を見直すことになったが、モニタリング条件の見直しをせずにいると、モニタリングが有効に機能しなくなったり、非効率になったりすることがある”として、E課長に対し、⑥モニタリングの有効性と効率性を維持するための施策を検討するように指示した。
 その後、H社ではその施策を踏まえたモニタリングを継続して実施している。

設問1 [モニタリングの検討]について、(1)~(3)に答えよ。
(1) 本文中の下線①を行わなかった場合に、表3を作る上でどのような情報が不足すると考えられるか。25字以内で具体的に述べよ。解説・回答
(2) 表3中の【 a 】に入れる条件とは何か。具体例を一つ挙げ、25字以内で述べよ。解説・回答
(3) 図1中の下線②について、調査の対象とする従業員を端末IDで特定しようとするのはどのイベントの場合か。表1中のイベントから選べ。解説・回答
設問2 [モニタリングの実施]について(1)~(4)に答えよ。
(1) 本文中の下線③について、どのような効果があると考えられるか。20字以内で述べよ。解説・回答
(2) 本文中の下線④について、モニタリング条件の開示によるセキュリティ上の懸念とは何か。40字以内で述べよ。解説・回答
(3) 本文中の下線⑤について、適切なモニタリングができなくなるのは、どのようなアクセスを行った場合か。本文中の字句を用いて60字以内で具体的に述べよ。解説・回答
(4) 表4中の【 b 】に入れる条件とは何か。具体例を一つあげ、30字以内で述べよ。解説・回答
設問3 本文中の下線⑥について、モニタリングの有効性と効率性を維持するための施策とは何か。50字以内で具体的に述べよ。解説・回答
最終更新:2013年10月13日 14:08