燦々と照りつける太陽。
ここは"惑星ゾラ"といわれている地球。
一面に広がる荒野に銃声が響く。
「近すぎるよ!! もっと離れて!!」
銃弾2発がサボテンを撃ち抜き、爆発が起こる。
「くそおっ!!」
「何やってんの!?」
「るせえ!!」
「ブルメ!! よく狙って!!」
ブレーカー集団サンドラットのリーダー、ラグ・ウラロがホバギーでサボテンの前を通り過ぎる。
すると、突然大爆発が。
ラグと、他2機のホバギーがその地点から離れると、そこに現れたのは大型ウォーカーマシン(WM)・ダッガー。
頭部機銃、更に左腕のマシンガンがホバギーめがけて放たれるが、回避される。
「撃て!」
サンドラットのメンバー、ブルメが号令をかける。
「てーい!!」
他のサンドラットのメンバー、ダイクの操縦するホバギーの後部座席から、チルがバズーカを発射。しかし、砲弾はダッガーを大きくそれた。
更に、ダッガーは頭部機銃で追撃をかけるが、当たらない。
「サンドラットのチビ共が!!」
撃ちながら文句を垂れるブレーカー。
ラグのホバギーがダッガーに接近。そして狙いをつけて拳銃を発砲。
ラグ「!」
ダッガーの胴体にヒット。
慌てふためくブレーカー達。
「ぐええっ!!」
「右だ!」
「左だ左!!」
操縦していたブレーカーの1人が外に出て、胴体を駆け上がっていく。
ラグ「ブルメ! チャンスだよ!!」
ブルメ「わかってる!!」
ブルメがバズーカを構え、発射。
ブルメ「させるか!」
砲弾はダッガーの足元の崖に当たり、爆発する。
足場が崩れ、ダッガーは転倒。
ブレーカー「どぅわああああっ!!」
左腕にしがみ付いていたブレーカーが吹き飛ぶ。
ブレーカー「う…あああああっ!!」
更に、頭部機銃にしがみ付いていたブレーカーも落ちそうになる。
ラグ「!」
再び立ち上がろうとするダッガーに、ラグが拳銃を発砲。
銃弾は左足の付け根を直撃し、爆発。
ダイク「ラグ!! 無茶すんな!!」
ダイクとチルのホバギーが通り過ぎた傍らに、1人の少年が倒れている。
彼の名はジロン・アモス。
ジロン「……うるさいな…!」
彼は銃声に気付いて目を覚ました。
そして寝返りを打つと…。
ジロン「……うっ!」
右腕が地面についた途端に激痛が走った。どうやら骨折しているらしい。
そして目を開けて空を仰ぐ。
ジロン「……まだ…生きてる……?」
ラグのホバギーが、ジロンの真上を通り過ぎる。
ジロン「?」
ラグ「!!」
ラグが拳銃を発砲。
ブレーカーが手榴弾で応戦。
ブレーカー「こいつ!!」
爆風でラグのホバギーがひっくり返る。
ラグ「ああっ!!…えーい!! ああ…このぉぉぉぉぉぉ!!」
それでも、ラグはハンドルを掴んだまま体勢を立て直そうと猛ダッシュを試みる。しかし…。
ラグ「あっ!」
飛び乗ろうとした瞬間、爆風にあおられてハンドルを手放してしまい、ホバギーは無人のまま飛び去って行く。
ラグ「!!」
ブルメ「ラグ!! 大丈夫か!?」
ラグ「あたしはいいよ!! 早く追っ払うんだ!!」
しかし、盾にしていた岩が吹き飛んでしまい、ラグは身をかがめて砲撃をかわす。
ラグ「…いくら弾持ってんだ!?」
ジロン「低くしろ!」
ラグ「あっ!?」
突然、ホバギーのスキッドがラグの尻を押さえつける。
ラグ「うっ…!」
通り過ぎた後に起こった砂埃がラグの目に入る。
ラグ「あたしのホバギーじゃないか!?」
それは何と、遠くに飛んで行った筈のラグのホバギーで、しかもジロンが乗っていた。
ラグ「あっ!!」
ブレーカーが遠くからをマシンガンを浴びせてきた。そこに向かっていく1台のホバギー。
ブレーカー「くそぉ!!」
マシンガンをかわしながら突っ込んでくるホバギー。
ブレーカー「うおぉっ!! ああ、ああぁぁぁっ!! このぉぉっ!! あああぁぁぁぁっ!!」
ブレーカーのマシンガンにホバギーのスキッドが引っかかり、そのまま吊られた挙句落ちてしまう。
片腕でホバギーを操縦しているジロン。
ブレーカー達のうち1人が、背後から接近するホバギーに気付き、方向転換してマシンガンを撃つが…。
ブレーカー「?」
突然弾切れし、悪あがき同然に撃つふりをする。
ジロン「へへ…」
ブレーカー「この!!」
ブレーカーが弾切れしたマシンガンを投げつけるも当たらず、突っ込んできたホバギーのスキッドが顔面に直撃。
ブレーカー「うわあっ!!」
ジロン「あと1人か!」
ブルメ「お前は!?」
ジロン「援護してくれりゃいいんだ!!」
ブルメ「…何だ?」
ジロンのホバギーがブレーカー達に近づくと、その直前で停止。
ブレーカー「…?」
ブレーカーは構えていたマシンガンを下げてしまう。
ほくそ笑むジロン。
ブレーカー「へへへ…」
ホバギーが再び前進。ブレーカー達のうち1人は逃げ出すが、スキッドに引っかかったまま吊り下げられたもう1人のブレーカーを2度ぶつけられる。
ダイク「あーあ…」
チル「何?」
ラグ「…ふぅ…」
ブレーカー「あああぁぁぁぁ…!!!」
そして、ブレーカー達を追い払ったジロン(ラグ)のホバギーが戻ってくる。
ブルメ「ラグ!! 誰だい!?」
ラグ「知るもんか! あんな馬の骨!」
しかし、途中でジロンは座席から落ちてしまう。
チル「あ~!?」
ダイク「逃げたのか?」
ブルメ「ラグ!!」
ラグ「ちいっ! 様子を見るんだよ!」
ブルメ「了解!」
ブルメはジロンの様子を見に行き、ラグは無人のまま飛ぶ自分のホバギーに乗り込む。
ラグ「ダイクとチルは、WMから貰える物を貰っときなー!!」
ダイク「了解!」
ダッガーの残骸に向かうダイクとチル。
そしてラグは、ブルメの様子を見に行く。すると…。
ブルメ「こいつ気絶してやがる」
ラグ「気絶~!?」
ブルメ「おい。起きろよ、馬の骨」
ラグ「やられたのかい?」
ブルメ「さあね…おい」
右腕を軽く蹴った途端…。
ジロン「うわああああ!!!」
痛みの余り大ジャンプで飛び起きるジロン。
ブルメ「あ…」
咄嗟にマシンガンを構えるブルメ。
直後、ジロンは真っ直ぐ落下。
ラグ「どうしたんだよおい?」
ジロン「…ちょっと、腕をね…」
ラグ「…骨折ぐらいしてそうだよ」
ブルメ「へぇ」
ラグ「そんなんでよくやったモンだ」
ジロン「…お、親父が…お、女は大事にしろって…」
ブルメ「あはははは…」
ラグ「…おかしくないよ!」
あざ笑うブルメに怒るラグ。
ブルメ「だってよ…ぅわはははは…」
ジロン「み…水を…そのくらいいいだろ?」
ラグ「…ブルメ、水筒!」
ブルメ「あはははは…」
まだ笑いの止まらないブルメ。水筒を取りにホバギーへ。
ラグはダイクとチルの様子を見る。
ダイクはダッガーの左腕から弾薬の残りを調べていた。
ダイク「1発も残ってないじゃないか…チル! コンピュータ・コア外せるか!?」
チル「抜けたー抜けた! それよ!」
コクピットから抜き取ったコンピュータ・コアを投げてダイクに渡す。
ダイク「あいよっと! あ、まだ使える。焼けてないし、新品じゃないか」
チル「他にはなーんもないよ! 新しい部品は!」
ダイク「いい! いいから降りて来い!」
チル「う……!」
小窓から抜け出すが、服が引っかかったのか、抜け出した途端反動で勢いよく飛び出してしまう。
ダイク「バザーでこのコンピュータ…!」
チルは跳ね返って落下。ダイクがそれを受け止める。
ダイク「アホ!」
しかしバランスを崩し…。
ダイク「……ぉぉぉあああ…!?」
チルはホバギーまでジャンプ。しかしダイクは今にも落下しそうだ。
ダイク「ぁぁぁあああ…」
チル「!」
案の定落下した。
ジロン「はぁ…」
座り込んでいるジロン。水を飲み干して一息ついている。
ブルメ「水筒返してくれよ」
ジロン「?」
ラグ「あんた、何処に行くのさ?」
ジロン「…バザーに行くんだ」
ブルメ「1人でか?」
立ち上がるジロン。
ジロン「…ああ。お前等のようにWMを頂こうと思ってさ」
ブルメ「お前1人でか?」
ジロン「ああ」
ブルメ「バッカじゃないかお前?」
ダイク「マシン無しで、そんな格好で、バザーに行ってみろ。追い出されるか、殺られるかの、どっちかだぞ」
ジロン「行ってみなきゃ分からないだろうが!…水ありがとうよ」
去り行くジロンを、ブルメはふくれっ面で見送る。
ラグは、どうも彼が気になっていた。
ブルメ「引き上げようぜ!」
ダイク「ああ」
サンドラットは一斉にホバギーで飛び去る。
しかし、途中でラグはジロンが気にかかり、Uターンする。遅れてブルメ達もついて行く。
そして、ラグはジロンに追いついた。
ブルメは未だにふくれっ面。例え石にぶつかって揺れても、表情1つ変えない。
ラグ「ブルメ!」
ジロンはブルメのホバギーの後部座席に乗せて貰っていた。
そのまま3機共平常運転を続けていると…。
ラグ「…キャッホ~イ!! はははは…」
突然ラグ機が加速。大はしゃぎで辺りを飛び回る。
ブルメ「あ~あ、はしゃいじゃってよ。こんな馬の骨どこがいいんだかね…」
ジロン「何か言ったか?」
ブルメ「んにゃ。痛むのかい?」
ジロン「なに、大した事はない」
ブルメ「そーら良かった。おおっと!!」
突然、ブルメはホバギーを上昇させ、すぐさま下降。
ジロンの右腕が機体にぶつかり…。
ジロン「うわああああああ!!!」
ブルメ「ああ悪い悪い。まただ! あっ!」
再びホバギーを上下させる。
ブルメ「うぉっ!」
またしてもジロンは右腕をぶつけ…。
ジロン「うぉおああっ!!」
ブルメ「大丈夫か? おい大将大将! しっかりしてよ!」
ラグ「ブルメ!! わざとやったね!?」
ブルメ「まさか!」
ラグ「こすっからい事やるんじゃないよ!!」
ダイク「ラグ、バザーだバザーだ!」
ラグ「…ブルメ! 一等初めに、医者を探すんだよ!」
ラグの視線の遥か先に、バザーが見える。
ブルメ「大将! バザーだよ! 気に入ったWMはありそうかい?」
ジロン「結構賑やかだな」
ブルメ「カーゴのバザーだからな」
かくしてサンドラットは、目的のバザーに辿りつく。
バザー主催者の雇われブレーカー、ゲラバ・ゲラバの検問にあっていた。
ゲラバ「子供だけじゃあ駄目だ駄目だ! ブルーストーンは持ってきちゃいないんだろ!?」
ラグ「キャリング・カーゴさんとこの雇われブレーカーがそんなにお堅いのかい? 病人がいるんだよ。いいじゃないか」
そういってラグはゲラバに金貨を渡す。
ゲラバ「おおっと! いいだろう。騒ぎは起こすなよ」
ラグ「済まないね」
何とかサンドラットはバザーに入れた。
男「子供にしちゃえらいバズーカ持ってんじゃねえか」
ゲラバ「子供だけで食ってんだからいいじゃないの」
医者を探して、街中をホバギーで突っ走る。
酒場から男が1人飛び出す。
「表へ出ろ表!!」
更にもう1人が出てくる。喧嘩の真っ最中らしい。
「WMでやろうってのか!! 面白え!!」
酒場の客が一斉に走り出す。
どうでもいいとばかりに酒場を離れる、黒い帽子に黒マントの男…ティンプ・シャローン。
彼の横をサンドラットが通り過ぎていく。
街の外の小高い丘では、先程の男たちが小型WMで乱闘を繰り広げている。
片や緑のギャロップ、片や茶色とサンドブラウンのトラッド11。
その頃サンドラットは、メディック・ヘルトの病院に着いていた。
メディック「? 診て貰いたいじゃと?」
ラグは金塊を机に放り投げる。
ラグ「だからさ、金塊がこれだけあるって言うんだよ?」
メディック「ふむ…何処に落ちてたんじゃ」
ラグ「あたし達の汗の結晶だよ。ジロン!」
机の上に座り込んでジロンを呼ぶ。
ジロン「…どういうつもりだよ。金を使って」
ラグ「いいじゃないか」
メディック「ほら見せろ」
ジロン「右腕が痛いんだ」
メディック「ふむ」
右腕を軽く握ると…。
ジロン「うわあああああ!!」
痛みの余り跳んでしまう。
一方、バザーに青いトレーラーが停まり、飛び降りたドライバーがバザーの雑踏の中を進んでいると…。
「どうだ、"ザブングル"は?」
ドライバーに声をかけたのは、バザーを主催する交易商キャリング・カーゴ。
「私の趣味じゃありませんな」
ドライバーはキャリングの雇われブレーカーの元締め、キッド・ホーラ。
ホーラ「若い者にでも使わせちゃあどうです? 私には、プロメウスがあります」
キャリング「はっはっはっはっは……?」
ギャロップとトラッド11の乱闘は、バザーをも巻き込もうとしていた。
キャリング「バザーの邪魔だ! ザブングルで止めてみせろ!」
ホーラ「は?」
キャリング「やってみせろよ!」
ホーラ「はぁ…」
病院では…。
メディック「1週間はギブスを外すんじゃない」
ジロンは治療に加え、新しい戦闘服を貰っていた。
ジロン「分かったよ。臭いなこの服!」
メディック「文句言うな。くれてやるんじゃ」
ジロン「捨てるつもりだったんだろ?」
メディック「…」
用が済んで病院を去る。
ジロン「メディックさん、じゃ」
ラグ「じゃあね~」
玄関を閉める。
メディック「フン……!?」
机の上にあった金塊がない。
メディック「金が…あいつら~!」
大急ぎで金塊を取り戻そうと外に出るが…。
メディック「何処にいるんだ…何処にクソぉぉぉ!」
太った男と正面衝突。
メディック「うわっ!」
男「頭痛の薬くれ先生」
メディック「邪魔だ!」
無視して走ろうとするも腕1本で捕まえられ…。
男「患者は俺だぜ先生」
一方…。
ラグ「ははは…お宝お宝!」
上機嫌なラグ。金塊を放り投げてキャッチ。
何と、治療費として払った筈の金塊を奪い、治療費を踏み倒していた。
ジロン「どうせすぐ見つかっちゃうぜ?」
ラグ「3日間逃げ切ればそれっきりだし、直に自分の手で受け取らなかった医者がいけないのさ。それに何であたしが、あんたの為にお金を使わなくちゃいけないのさ?」
ジロン「そりゃそうだ」
ラグ「…どう? 目ぼしいWMはあったかい?」
乱闘騒ぎを鎮める為に、青いトレーラー…ザブングルが駆けつける。
車体が分離し、それぞれが戦闘機形態に変形して飛行。更に再合体し、人型に限りなく近い体格の大型WMに。
着地後、一気に走って行き、キックで2機を吹っ飛ばす。
ジロン「凄い! まるで人間並みの動きじゃないか!」
ラグ「でも人形みたい。華奢じゃない?」
ジロン「いや、あの手を見たろ? 人間そっくりだ!」
ザブングルの頭部のキャノピーを開き、ホーラがマイクで注意を呼びかける。
ホーラ「お前等!! キャリングの旦那のバザーの目の前で、よくもガチャガチャやってくれたな!!」
2機が起き上がる。
ホーラ「さっさと失せろ!! 2度とキャリングの旦那の前に、姿を見せるな!!」
チルはリンゴを1個ラグに渡し、一緒に食べる。
すると、他の仲間も集まってくる。
ブルメ「邪魔が入ったのか?」
ダイク「誰のWMなんだ?」
ラグ「キャリング・カーゴのらしい」
ブルメ「キャリングの?」
ジロン「あれにするよ。気に入ったんだ」
ブルメ「へへへへ…1人で手に入れられるわけないじゃないか」
ラグ「だから手を貸しとくれ」
ブルメ「え?…何で俺が手伝わなくっちゃなんないんだよ!」
ラグ「あたしが手を貸すからさ」
ブルメ「え…医者の面倒だけじゃなくって今度は…」
ラグ「あたしのやり方が嫌ならいいんだよ」
ブルメ「いいんだよって…よかないよ…」
ラグ「あいつの腕は見たろ!?」
ブルメ「しかし!」
チル「ラグは好きなんだろ? ブルメはライバルが出来るのが嫌なのね」
ブルメ&ラグ「そんなんじゃない!!」
ブルメとラグに同時に蹴飛ばされるチル。
チル「ぅわはは~!! ゎああジロォォォォォン!!!」
ジロンに泣きつく。
ジロン「どうした?」
ブルメ&ラグ「フン!」
ジロン「俺の事で諍いか?」
ダイク「まあな」
ジロン「あれは今までにないタイプのWMだ」
ダイク「趣味としちゃあ、面白いしな」
ジロンは左手を差し出すが、ダイクは右手を出す。
しかし、すぐに左手を出して握手する。
ジロン「済まない。後々の事考えると、あんなのが欲しいんだ」
チル「あたいも手貸すぜ!」
ジロン「あ…」
嬉し涙を流す。
ジロン「ありがとう…」
ダイク「まあ、人には色々事情あっからな」
ジロン「ああ」
ダイク「で、どうする? ラグ」
チル「泣いてんよ、こいつ」
ラグ「ふ~ん」
ジロン「埃がさ、入っちまって…」
ラグ「…まあいいか」
ブルメがラグに近づく。2人はまだ喧嘩を引きずっている様だが…。
ラグ「……どうする?」
ブルメ「俺ならあれを使うな」
ブルメが指差し、一行が目をつけたのは、キャリングの一人娘エルチ。
「ホーラ、そろそろ夜警の準備をしてね」
ホーラ「へい、お嬢さん」
エルチの隣でホバーカーを運転している筋肉質の男は、彼女の専属ガードマンのファットマン・ビッグ。
「1・2・3・4、1・2・3・4…」
プロポピエフ・サンドーラとローズ夫人が営む芸人一座のテントの中で、団員のルル、ミミ、キキがフレンチカンカンと思われるダンスのレッスンをしている。
エルチ「プロポピエフ! ラブリー・ローズ!」
プロポピエフ&ローズ「?」
エルチ「何度あたしの理想を話したらわかってくれるの!」
プロポピエフが手で合図し、ルル、ミミ、キキは一目散に舞台の袖へ。
エルチ「あたしの夢はね、この地球に香り高い文化の花を咲かせる事なの」
「どなたでも! どなたでも早く!」
「嫌!」
ルル、ミミ、キキは人形劇を始めた。
プロポピエフ「いや、どうも…」
エルチ「上手にはなっている様ね」
プロポピエフに金を払うエルチ。
エルチ「文化の為よ」
プロポピエフ「そりゃあもう…」
エルチ「ラブリー・ローズもね」
ローズ「そりゃあお姫様の為ですもの…? お客様の様ですよ」
ファットマンがテントの入口を開けている。
ローズ「べー!!」
プロポピエフ「? こらっ!!」
プロポピエフがローズの右頬に平手打ち。
ファットマンが拳銃を構えた瞬間、何者かの体当たりを受けあらぬ方向に発砲してしまう。
そして、突入してくるラグとブルメ。エルチも跳んで距離をとる。
ローズ「きゃああああ!!」
驚きのあまり、ローズはプロポピエフを抱き締める。
プロポピエフ「な、何だ!?」
ラグ「エルチ・カーゴ!! 動くんじゃないよ!!」
拳銃を構えて脅迫する。
エルチ「何でさ!?」
ラグ「あたし達がサンドラットって知ってるだろ!?」
エルチ「乱暴なのね! あたしはね、この地球に文化を育てようとしてる身なのよ!?」
ブルメ「だからって人質になれないって事はないだろ?」
ローズ「…あ、あんた…」
プロポピエフ「…」
ジロン「動かないで」
チル「こっちも動いちゃ駄目!!」
ジロンとチルは舞台から脅迫。
ダイク「!」
椅子の上に立ってマシンガンを構えるダイク。
エルチ「人質を取ったって、パパはお金は出さないよ!」
ラグ「青いWMを頂くだけさ! …動かないで!!」
椅子の下で睨み合うラグとエルチ。
ラグの拳銃がエルチを捉えた瞬間、彼女が投げたナイフが銃口に当たって弾け飛ぶ。
ラグ「!?」
ダイク「どうした!?」
ブルメ「動くな!」
ブルメが撃とうとした瞬間、エルチのナイフがテントを突き抜け、穴から太陽光が入り込む。
ブルメ「…」
ダイク「!?」
ブルメのヘッドギアが、ナイフで切れていた。
エルチ「欲しけりゃ勝手にやったら!? アイアン・ギアーの前の倉庫にあるわ!」
そう言いつつテントを去るエルチ。ファットマンも起き上がって、後のサンドラットを一睨みして出て行く。
チル「んしょ、んしょ、んしょ、んしょ…」
チルはサンドーラ夫妻、ルル、ミミ、キキをまとめて走り回りながら縄で縛りつけている。
ジロン「失敗だ、チル。やめとけ!」
チル「何で~!?」
ジロン「人は見かけじゃないって事さ」
ラグは人質作戦に失敗し、落胆していた。
ダイク「全くさ、凄腕の女だぜ」
ジロン「でも最後の台詞は本気みたいだ。そう思うだろ?」
プロポピエフ「わしらにはいいスポンサーだ」
ローズ「親父さんとは上手くいってないみたいだけどね」
プロポピエフ「ラブリー!」
ローズ「ホントの事じゃないか」
ラグ「…サンドラットの面目丸潰れだよ! もうあんたの問題じゃない! 何としても、青いWMは奪い取ってみせるから!」
右拳を左掌にぶつける。
ラグ「ダイク! ブルメ!」
夜。WMでバザーの警備が行われている。
しかし、警備をさぼったり、WMを自動操縦にするなどして寝ている者もいた…。
そしてサンドラットは、陰からチャンスを窺っている。
ジロン「…!」
ジロンの頭上を1匹の砂漠トカゲが通り過ぎていく。
ジロン「今度食ってやるからな…!」
ラグの合図でダイクが前進。ジロンもその後に続く。
小型WM・クラブの警備の目を盗み、一行は走る。
しかし、しんがりのブルメにサーチライトが…。
それは崖下を歩いていたダッガーからのものだったが、自動操縦でパイロットが寝ていたのか、警報は鳴らなかった。
ブルメ「なまじオートマチックなんかがあるからよ!」
ようやく追いついたブルメ。
目の前には、キャリング一家が所有するランドシップ、アイアン・ギアーが。
ブルメ「どうした?」
ダイク「罠じゃないかってよ」
ブルメ「罠か…そうだな。あのお嬢さんってのが仕掛けたのか…」
ラグ「可愛くない女だよ」
ジロンが1人で先に行く。
ラグ「ジロン…」
ジロンは外壁に張り付き、隙を窺う。
開いたハッチに左腕だけを突っ込み、拾った木の棒を振り回したり床を叩いたりしてから、ゆっくり潜入していく。
その後コンテナの上、更にその上のはしごを昇って天井の穴から上の階に顔を出す。ラグも遅れてついて来ていた。
ジロン「あった! …!」
しかし、咄嗟に下に降りる。
ラグ「人かい?」
再度顔を出す。
ジロン「…何ね、いきなり首を出しちゃったから…まずいじゃない。そういうの」
ラグ「あったんだろ?」
ジロン「エルチって子、嘘をついてないな…」
そこは格納庫。ザブングルがトレーラー形態で格納されていた。
ブルメ「はっはっはっは…こんなのがWMになるのか! 冗談みたいだな…」
ダイク「喋るな!」
アイアン・ギアー艦内の一室で、カーゴ親子とホーラが夕食をとっている。
キャリング「ふぁっはっはっは……後は武器の使いようだ…」
ホーラ「…!?」
ホーラが肉を食いちぎった瞬間、警報が鳴り響く。
ホーラ「どうした!?」
ブレーカー「第2格納庫に賊が侵入!!」
ホーラ「では…」
食事を切り上げ、挨拶もなしに部屋を出ようとするホーラ。
エルチ「挨拶ぐらいしたらどうなの?」
ホーラ「…ご馳走様です」
キャリング「そんな事をやってる暇に、賊を逃がしたら給料減らすぞ」
ホーラ「じゃ、旦那」
エルチ「がさつなんだから…(本当に来たんだわあいつ等…)」
エルチも食事を止める。
アイアン・ギアーの船体左のハッチが開き、ザブングルが発進準備に入る。
ダイク「ジロン、大丈夫か?」
ジロン「ロックマンの息子だぜ? WMぐらい!」
ラグ「ハンドルは押さえてる」
ジロン「ブレーキ外すぞ!」
ゆっくり発進させる。
一方、ホーラは部下のブレーカーと共に旧式のホバギー・アンクルで出撃。
ホーラ「WMの連中を叩き起こせ!!」
ブレーカー「おう!」
発進真っ最中のザブングルは…。
ダイク「落ちるぞ!!」
ジロン「アクセルが甘いんだ! ホバーがかからない! ぐっ!」
スロープが地面に届いておらず、ザブングルは着地出来ずにつかえてしまう。
ダイクとブルメが落下そうになるが、何とか耐えた。
ブルメ「うわあああっ!!」
ラグ「あぁっ!!」
ダイク「あぁぁっ!! …動くなぁぁぁ!!」
ラグ「落っこちないで!!」
ジロン「…上から、トレーラーが押さえ込んでいるんだ!!」
警備していたダッガーの砲撃により、爆風に押されるザブングル。
ブルメ&ダイク「うわああああっ!!」
ホーラ「旦那のWMだ!! ぶち壊してはならねえぞ!!」
ブレーカー「何か言ってるぞ!」「逃がさなきゃいいんだろ?」
更に砲撃を受け、吹っ飛ぶザブングル。だが…。
ジロン「かかった!! ハンドルを…」
ラグ「!!」
ハンドルを握るラグ。
ジロン「腕を押すな!!」
ラグ「どうすんだよ!!」
ジロン「引いてくれ!!」
ラグはハンドルを力いっぱい手前に引く。
ラグ「ん~!!」
ジロン「ぅおおおおっ!!」
何とか着地。
しかし、大型WMガバメントとダッガーの編隊が急速に接近している。
ジロン「かかれ…!!」
必死でシフトレバーを前後し、アクセルを踏み込む。
ザブングルが前進。
ブルメ「うおおおっ!!」
ラグ「ぁあうっ!!」
ブルメ「お、おおおおっ!!」
ラグ「うおおあっ!!」
乱暴な運転に、同乗者も叫び声をあげる。
しばらく蛇行運転した後、荒地にタイヤが引っかかり停止。
ダイク「…!!」
サーチライトに捕捉されるダイク。しかし、マシンガンですかさず反撃。
向かってくるダッガーと2台のアンクル。
サンドラットが一斉にザブングルから離れる。ラグも拳銃を発砲しながら離脱。
ジロン「動けぇ!!」
どうにか荒地を抜けて再び前進。
ジロン「動いた! WM!?」
左手から迫るガバメントとダッガー。ガバメントの胸部機銃がザブングルを襲う。
ジロン「…!?」
その時、ジロンの脳裏に家族を殺された記憶が甦る。
ジロン「母さあああん!! 父さああああん!!」
濃緑色のガバメントにより、ジロンの目の前で母が撃たれ、父もダッガーのコクピットごと蹴り潰されてしまった。
ジロン「クソぉぉぉ!! うわああああああ!!!」
スロットルを前へ。そして力いっぱいアクセルを踏み込む。
するとザブングルが上昇し、変形を開始。
ホーラ「ザブングルが…」
WM形態に変形し、着地。コクピットが頭部に移動。
振り返ると、小型WMクラブが襲ってくる。
クラブのパンチをかわし…。
ジロン「こいつ!! いけぇぇぇ!!」
クラブを右腕で払いのけ、更にパンチを浴びせると、一撃で左腕が吹き飛ぶ。
ジロン「クラブタイプを一撃か! …?」
ホーラ「取り返せ!! 何としても!!」
ガバメントに乗るブレーカーにホーラの檄が飛ぶ。
ジロン「こいつか…」
ガバメントとダッガーに挟み撃ちされる。
ダッガーの右手が、ザブングルの左翼を掴む。
ジロン「!!」
後に体重をかけ、ダッガーを転倒させる。
ジロン「こいつ!!」
ダッガーの足を思いきり踏みつけ破壊。
追撃にきたガバメントのパンチを払いのけるも、直後にもう一発腹部にパンチを受け、後退する。
ジロン「す、凄いパワーだ!」
ブルメ「あのバカさっさと逃げないから!」
徐々に追い詰められるザブングルを、サンドラットはホバギーから見ている。
ダイク「いや、逃げるつもりはないんだ。初めてにしちゃあよくやってるぜ!」
チル「やってるやってる!」
ラグ「でもさ、ああ無茶じゃ面倒見切れないよ! たくさ…!」
ザブングルはガバメントに両腕を掴まれた。
ジロン「やるな!!」
今にも両腕を引きちぎられそうなその時…。
ジロン「…ん~…わああああああああ!!!」
全力でハンドルを右に切ると、ザブングルが両腕を回し、ガバメントをひっくり返す。
掴んでいた腕を振りほどいてガッツポーズ。
ジロン「はっはっはっはっは……どうだ!」
勝ち誇るジロン。しかし次の瞬間…。
ジロン「!?」
目の前に、もう1機のザブングルが降り立つ。
ジロン「しまった!! もう1台あったのか!!」
迫るもう1機のザブングル。
ジロン「負けるかぁ!!」
パンチを受け止められ、逆に掴まれる。
ジロン「ん~!!」
もう1機のザブングルのキャノピーが開き、乗っていたファットマンがジロンのザブングルに飛び移る。
ジロン機もキャノピーを開く。
ジロン「エルチ…」
何と、エルチが同乗していた。彼女もジロン機に飛び移る。
エルチ「うふふ…ほんとに来るとはね。見上げたモンよあんた」
ジロン「やっぱり罠だったのか! …!?」
エルチに手錠をかけられる。
エルチ「えへへへ~捕まえた」
左腕とハンドルを手錠で繋がれてしまう。
ジロン「クッソぉぉぉ!! ぐぅぅぅぅぅ!!」
悔しさの余り拳を叩き付ける。
エルチ「うふふ…そういうの好きよ。おやり」
ファットマンがジロンの腹にキックをぶち込む。
ジロン「うぉあっ!! ぐっ…」
そのまま気絶してしまう。
チル「あ~あ捕まっちゃった…」
ブルメ「要するにお調子者なんだぜあいつ」
ダイク「らしいな」
ラグ「あ~あ…やんなっちゃうよ…あんなお嬢さんに引っかかっちゃってさ…!」
動かない2機のザブングル。
最終更新:2015年02月27日 19:47