過疎化の進む田舎町。緑豊かな、それだけが取り柄の山間の町。
──俺たちの通う学校はそこにある。

春と夏の間にある、日本特有の短い憂鬱。梅雨──。

その短い季節が俺に与えたもの。
それは、きっかけ。
長い間話さなくなっていた幼なじみの朽無みそぎ。
急な雨、傘を忘れて佇むみそぎを見かね、俺は傘に入れて行ってやることにした。
そこで交わした約束は、「昔のようにお話しすること」──
些細な、ほんの些細なきっかけのはずだった。

年頃の男女が相合傘。そのことはクラスの話のネタ、主に、俺とみそぎへの冷やかしのネタとなるには十分だった。
噂が噂を呼び、それは徐々にエスカレートして行った。
この手の噂は足も速く、尾ヒレも付きやすい。
この学校に通う後輩の首舘あやめはすぐにそれを聞きつけ、説明を強いるし、何かと俺を目の敵にする生徒会長犬哭キリコお嬢様は、付き合ってもいないものを不純異性交遊として別れさせようとまでする。
自宅だけが心身を落ち着かせることの出来る場所となった。身の周りにいる人間で、その噂を知らない者は、中学に通う妹、雨宮しとねだけ。

そのきっかけは、俺自身を非日常へと誘う道標。
俺の意思を置き去りにして進んでいく世界を、誰も止められない。
それは、蔓延する病のように。
その世界には、止まない雨音だけが満ちている。.


















  だいすきな   だけなのに


最終更新:2013年03月18日 00:34