飛躍

【ペン回し日本大会開催のお知らせ】

その告知は、瞬く間に日本各地のペンスピナーのもとに広まった。
もちろん、彼の元にもその告知は回ってきた。
しかし彼の実力は、いわば中堅レベル。決勝進出が関の山といったところで、大会優勝は夢のまた夢。
いざ練習しようにも、日本大会は二ヶ月後とかなり急であるため、十分な練習もままならない。
「くそっ!練習できる時間がもっとあれば…!」

そんな願いを偶然耳にしたのか、彼のもとへ神様が現れた。
『そなたの願い、満足な形ではなくとも叶えることは可能じゃ』
「本当か!?」
『ああ。時間の流れが1/10になる空間なら用意できる。そう、その空間で10日過ごしても、実際には1日しか経過していないのじゃ。しかし、この空間は重力が強く、また大気も薄くて人が住まうには過酷な環境じゃが…』
「それでも構わない!是非その空間で練習させてくれ!」

その日から、彼の猛特訓は始まった。
大会までの期間は二ヶ月足らずでも、神が用意した空間では一年を超える。その間彼は、パス系統はもちろん、スプレッド・エアースピニングと大会で高得点を狙えるであろう技を重点的に練習した。

そして大会当日。実質一年半もの練習は伊達ではなく、以前とは比べ物にならない程彼の技能は上達していた。
不思議と緊張はせず、むしろ間違いなく優勝できるという自信にさえ満ちていた。
「心なしか、身体が軽い…!」

しかし、そんな彼の努力も虚しく大会では予選敗退、優勝は実力派として有名なスピナーであった。

ところで、審査員の間では「エンターテイメント賞があれば間違いなく彼を表彰していたのに」という話でもちきりだったとか。
最終更新:2013年11月18日 03:14